採用してもすぐ辞める。その悩みを抱える中小企業の経営者は少なくありません。
給料を上げれば解決すると思っていた社長が、一本の記事をきっかけに気づきを得るストーリー。
人が定着する会社に変わるために、本当に見直すべきことは何か。
一人の社長の物語からひも解きます。
第1章 「また辞めた」が繰り返される
田中社長(52歳)の机の上に、また退職届が置かれていました。
「3年で5人目か……」と、静かにつぶやきました。
田中社長は、従業員20名の食品製造工場を経営しています。
地元スーパーや飲食店向けに惣菜を製造・納品する、創業30年の会社です。
品質には自信があり、取引先からの信頼も厚い会社でした。
それでも、人が定着しないのです。
給料を上げました。
休日も増やしました。
それでも辞めていく。
採用にかけたコストは、3年間で数百万円に積み上がっていました。
現場のベテラン社員にも、しわ寄せがいっていました。
「また一から教えなきゃならないのか」という疲弊感が、工場全体に漂い始めていました。
「何が悪いのか、もうわからない」。田中社長は、そう感じ始めていました。

第2章 焦りが生んだ「負の連鎖」
直近で辞めた社員との退職面談の言葉が、頭に残っていました。
「入社前に聞いていた話と、違いました」
その一言が、ずっと引っかかっていました。
思い返してみると、面接で伝えていないことがたくさんありました。
たとえば、年末年始前の繁忙期には、残業が週に4〜5日続くこともあります。
お盆前後も同様で、夜の8時、9時まで工場が動くことが珍しくありません。
そういったことを、面接では一切話していなかったのです。
「早上がりできる日も多いですよ」とは言いました。
でも「繁忙期はかなりハードです」とは、言いませんでした。

「いい人材を逃したくない」という焦りが、都合のいい部分だけを語らせていたのです。
欠員が出るたびに急いで求人を出し、「とりあえず採れた」という安堵を繰り返してきました。
採用基準も、気づけば下がっていました。
「少し不安だけど、まあいいか」と採用した人が、やはり早期に辞めていく。
そんな悪循環が、ずっと続いていたのです。
第3章 一本の記事が、社長の目を覚ました

ある夕方、田中社長は取引先への訪問の帰り道、電車の中でスマートフォンを開いていました。
SNSのタイムラインに、一本の記事が流れてきました。
中小企業の採用と定着をテーマにした、人事コンサルタントの記事でした。
「人がすぐに辞める中小企業の共通点とは? 採用を焦る経営者が陥りがちな罠」The 21 ONLINE
筆者:岩崎千夏(人事コンサルタント・国家資格キャリアコンサルタント)
記事にはこう書かれていました。
離職の根本原因は「価値観の不一致」であり、お金では埋められない問題だ、と。
採用で大切なのはスキルよりも「カルチャーマッチ」だという指摘が、深く刺さりました。
さらにこんな言葉もありました。
採用は「欠員が出たから補充する作業」ではなく、「会社の未来を左右する経営戦略だ」というのです。
電車が駅に着いても、田中社長はホームのベンチに座ったまま、最後まで読み続けました。
「採用を、経営として考えたことがなかった」と、静かに認めました。
スマートフォンをしまいながら、田中社長はぼんやりと窓の外を見ていました。
翌朝、出社前に一枚の紙を取り出しました。
「3年後に、どんな会社にしたいか」を、生まれて初めて書き始めたのです。
第4章 田中社長が変えようとした、3つのこと
気づきを得た田中社長は、まず3つのことを変えることにしました。
面接で、会社のリアルを正直に話す
良い面だけでなく、大変な部分も正直に伝えることにしました。
「年末年始前は残業が週に4〜5日続きます。お盆前後も同様です。それでも働いてみたいと思いますか?」
と、面接で直接聞くようにしたのです。
短期的には応募が減るかもしれません。
でも入社後のギャップがなければ、定着につながると考えました。
スキルより「価値観が合うか」を重視する
採用基準を「経験・スキル」から「うちの会社に合うかどうか」にシフトしました。
「チームで助け合える人かどうか」
「食品を作る仕事に誇りを持てるかどうか」
を、面接で丁寧に確認するようにしました。
採用を「経営計画」の一部にする
欠員が出てから動くのをやめました。
「繁忙期の前に、あと1人必要だ」と前もって計画を立て、余裕を持って動き始めたのです。
採用を人事任せにするのではなく、自分ごととして取り組む覚悟を持ちました。
結果はまだわかりません。
でも田中社長は、初めて前向きな気持ちで採用に向き合えていました。
「やっとスタートラインに立てた気がする」と、そう思っていました。

あなたの会社でも、同じことができます。
採用のやり方を見直すだけで、人が来る会社に変わることができます。
今日が、そのスタートラインです。





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