新卒採用が困難な中小企業にとって、人材確保は「他社から奪う」戦いです。
リクルートワークス研究所の調査から見えた「若手が会社を辞めない理由」を反転させると、引き抜きのヒントが浮かび上がります。
本記事では、若手の志向類型に応じた3つの実践的な獲得戦略を紹介します。
第1章 若手が会社を辞めない理由、ひっくり返すと見えてくるもの
リクルートワークス研究所が若手社員4322人を対象に「今の会社を辞めない理由」を聞いた調査があります。
(出典:日本の人事部「若手が「今の会社を辞めない」、12の理由」)
結果は12のカテゴリーに分類されました。
調査では「積極的理由」と「消極的理由」に大きく分かれました。
積極的理由には、給料や福利厚生などの「経済的理由」と、やりがいや人間関係などの「非経済的理由」があります。
消極的理由は「転職がめんどくさい」「なんとなく」といった理由です。
重要な発見がありました。
経済的理由だけでは社員の会社への愛着は高まらないのです。
非経済的理由が2つ以上重なると、会社への推奨度は大きく上昇します。
ここで視点を転換しましょう。
新卒採用が困難な中小企業にとって、人材確保は「他社から奪う」しかありません。
ならば「辞めない理由」をひっくり返せば「辞める理由」が見えてきます。
辞める理由を整理するとこうなります。
経済的理由では、給料が安い、昇給が見込めない、通勤が遠いなど。
非経済的理由では、やりがいがない、成長機会がない、人間関係が悪い、休みが取れないなど。
この非経済的な「辞める理由」こそが、引き抜き戦略の出発点です。

第2章 戦略A「裁量と成長」全面押し作戦
この戦略のコンセプトは「1年目から、全部やらせます」です。
大企業で歯車のように働いている若手の不満を直撃します。
具体的な施策を紹介します。
入社初日から重要プロジェクトに配置します。
経営会議に若手も参加させ、意思決定の現場を見せます。
失敗を許容する文化を徹底し、チャレンジを評価します。
複数の職種を経験できるプログラムを用意し、外部研修や資格取得は全額支援します。
この戦略が特に効くのは「成長・キャリア志向型」の人材です。
市場価値を高めたい、裁量が欲しい層に直撃します。
「技術・職人志向型」にもある程度効きます。
ただし、「安定・地元志向型」「ワークライフバランス型」には逆効果です。
リスクや負荷増を嫌うからです。
第3章 戦略B「生活安定」徹底保証作戦
この戦略のコンセプトは「あなたの生活を、絶対に壊しません」です。
転勤や残業への不安を徹底的に解消します。
具体的な施策を紹介します。
転勤なし、勤務地固定を契約書に明記します。
残業は月平均10時間以下、有給消化率は95%以上を実現します。
フルリモートやフレックスタイム制を導入します。
住宅ローン補助、育児との両立実績を具体例で示します。
この戦略が特に効くのは「安定・地元志向型」と「ワークライフバランス型」の人材です。
転勤がないこと、家族との時間を守れることに強く反応します。
ただし、「成長・キャリア志向型」「技術・職人志向型」には刺さりません。
安定より挑戦や技術環境を重視するからです。
第4章 戦略C「意味と誇り」共感獲得作戦
この戦略のコンセプトは「この仕事には、意味がある」です。
大企業の歯車感、利益優先への違和感を突きます。
具体的な施策を紹介します。
会社のミッションや存在意義を明確に語ります。
顧客の「ありがとう」を直接届ける仕組みを作ります。
技術者や職人が主役の組織文化を築きます。
地域や社会への貢献を具体的に示し、顧客との距離を近くします。
この戦略が特に効くのは「社会貢献志向型」と「技術・職人志向型」の人材です。
仕事の意味を重視し、技術への誇りと尊重に強く反応します。
「成長・キャリア志向型」にもある程度効きます。
ただし、「安定・地元志向型」「ワークライフバランス型」には響きにくいです。
意味より安定や労働条件を優先するからです。
まとめ 戦略を使いこなすための3つの原則
| 志向類型 | 戦略A(裁量・成長) | 戦略B(生活安定) | 戦略C(意味・誇り) |
|---|---|---|---|
| 成長・キャリア | ◎ | × | ◯ |
| 安定・地元 | × | ◎ | × |
| ワークライフバランス | × | ◎ | × |
| 技術・職人 | ◯ | × | ◎ |
| 社会貢献 | △ | △ | ◎ |
自社が提供できる価値から逆算してターゲットを絞りましょう。
全ての志向類型を狙うと中途半端になります。
複数の志向を持つ人材には戦略を組み合わせます。
例えば「成長志向×社会貢献志向」なら、戦略Aと戦略Cを組み合わせます。
重要なのは、「×」の戦略は絶対に使わないことです。
安定志向の人に「挑戦」を押しても響きません。
中小企業は給料では大企業に勝てないかもしれません。
しかし、非経済的理由を2つ、3つと重ねることで勝負できます。
大企業が1枚しか提供できないなら、中小企業は3枚で勝負しましょう。





コメント