人材採用で苦戦している中小企業は少なくありません。
特に若い世代の採用では、価値観の違いに戸惑う経営者も多いでしょう。
しかし若者は理解不能な存在ではありません。
データで読み解けば、彼らの行動には明確な理由があります。
理解することが、採用成功の第一歩です。
第1章 若者をホントに理解しようとしていますか
社長からよく聞く愚痴
私は、仕事柄中小企業の経営者とお話する機会もあります。
そういう時に社長から「若い者たちが何を考えているかわからない」という言葉を聞くこともあります。
まぁ、愚痴でしょうね。
しかし、その社長は、本当に若者たちを理解しようと思って言ってらっしゃるのか。
ちょっと疑問に思うこともあります。
世代が相当ちがう自分たちの考えに無理やり当てはめてはいないか。
それで、理解できないと決めつけてはいないでしょうか。
データで見る若者の本質
マーケティング専門メディア「MarkeZine」に興味深い記事が掲載されました。
『Z世代とY世代、時代の変化を比較 「合理的すぎる若者像」と体験・効率・安心重視の消費行動を紐解く』
2024年のZ世代社会人と2009年のY世代社会人を比較した調査です。
15年という時間を超えて、若年層の価値観がどう変化したかを検証しています。
この調査が優れているのは、単に「Z世代はこうだ」と決めつけるのではなく、「時代全体の変化」と「Z世代特有の傾向」を分けて分析している点です。
全世代に共通する変化なのか、それともZ世代だけの特徴なのか。
この視点で見ると、若者の行動の本質が見えてきます。
この記事から読み取れるZ世代の価値観を、採用の視点で読み解いていきましょう。
第2章 「やる気がない」は誤解かもしれない
データが示す新しい価値観
調査データを見ると、Z世代には確かに従来とは異なる傾向が見られます。
家族団らんの時間は減少し、幸福な家庭への憧れも低下しています。
結婚しても子どもを持つ必要はないという価値観が浸透し、恋愛や結婚への関心そのものが薄れています。
定職や出社といった従来の働き方よりも、自分のスタイルを優先する傾向が強いのです。
さらに国の政治への関心は23.9%、経済への関心は23.4%と、全世代の中でも特に低い数字です。
環境問題やエネルギー問題への関心も同様に低下しています。
ただし、高齢者の医療費負担など、自分に直接影響があるテーマには敏感に反応します。
「個人の納得」を重視する世代
これを見て「会社への忠誠心がない」「やる気がない」と感じる経営者もいるでしょう。
しかし実態は違います。
Z世代は組織への盲目的な帰属を拒否しているだけで、「個人の納得」を重視しているのです。
家庭観が希薄化する中、会社が「家族のようなもの」と言っても響きません。
大きな理念や社会貢献より、自分にとってのメリットや納得感の方が重要です。
彼らは「個人を守ること」に焦点を絞っています。
これは冷たさではなく、合理的なリスク管理の姿勢なのです。
採用で伝えるべきこと
採用で重要なのは、会社のビジョンや理念を一方的に押し付けないことです。
「この会社で働くことで、あなたはどう成長できるか」を具体的に示してください。
個人のキャリア形成を支援する姿勢を明確にすることです。
納得感のあるコミュニケーションが、信頼につながります。
第3章 採用で魅せるべきは「体験」と「効率」
選択的な消費行動
Z世代は消費に消極的なわけではありません。
グルメや食べ歩き、コンサート、2泊以上の旅行など、体験型の消費には積極的です。
一方で持ち家への願望は低下し、賃貸を好む傾向があります。
老後も一戸建てよりマンションを希望する人が増えています。
食生活では手料理に時間をかけず、効率を重視します。
健康面では、ジムに通う人は増えていませんが、ウォーキングやサプリメントなど、無理なく続けられる範囲での健康投資を行っています。
定期的に病院に行く割合も増加し、食事で体重を気にする人も増えています。
合理性と体験のバランス
これらのデータから見えてくるのは、Z世代の選択的な価値観です。
彼らは「ケチ」なのではなく、価値を感じるものを厳選しています。
体験、成長、健康といった、自分にとって意味のあるものには惜しまず投資します。
しかし無駄な時間や非効率な慣習には冷淡です。
合理性と体験のバランス感覚が、彼らの行動を特徴づけています。
具体的な採用戦略
採用においても、この視点が重要です。
給与の額だけでなく、「どんな成長体験が得られるか」を具体的に示してください。
研修制度、メンター制度、実際のプロジェクト参加機会などを明示することです。
同時に、効率性も訴求ポイントになります。
無駄な残業や非効率な会議を排除していることをアピールしてください。
リモートワークやフレックスタイムなど、柔軟な働き方を提供できるなら、それは大きな魅力です。
「この会社で働くことで得られる体験」を可視化することが、Z世代の心を動かします。
仕事シーンの動画を見せることは、その最大の訴求になります。
健康経営の実践も見逃せません。
定期健診の充実、メンタルヘルスケアの体制、相談窓口の設置など、個人の安心を守る取り組みは評価されます。
持続可能な形で自己投資できる環境を、求職者は探しているのです。
第4章 未来の採用市場を見据えて
Z世代は未来の標準
この調査記事の総括には、重要な指摘があります。
Z世代の特徴は単なる若者像ではなく、社会全体の変化を最も純化して示す存在である、と。
そして彼らの行動様式は次第に他世代にも広がり、未来の標準基準になる可能性が高いのです。
記事では3つのキーワードが示されています。
「所有から利用へ」
「義務から選択へ」
「社会から個人へ」
この3つです。
これは採用市場にも当てはまります。
変化する雇用の形
終身雇用という「所有」から、キャリアの「利用」へ。
会社への「義務」的な帰属から、働き方の「選択」へ。
「社会」のために尽くすことから、「個人」の納得を重視することへ。
これは「Z世代対策」ではありません。
「未来の採用市場の標準」なのです。
若者が働きたいと思う会社は、すべての世代が働きやすい会社です。
サブスク型の福利厚生、選択制の働き方、個人の納得を重視する文化。
これらは年齢を問わず、多くの人が求めているものです。
理解から始めよう
「若い者が何を考えているかわからない」と嘆く前に、理解する努力を始めてみませんか。
データに基づいて若者の価値観を知ることが第一歩です。
若者理解は採用成功のスタートラインであり、会社全体の働き方改革につながります。
理解から始めましょう。
今日から。






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