私たちの行動は、知らない人の意見に大きく影響されています。
飲食店の選択から商品購入まで、口コミの力は絶大です。
この「他者の声」を参考にする行動は、就職活動にも深く関わっています。
「あの会社はブラック」という噂は人材を遠ざけ、「働きやすい」という評判は優秀な人を引き寄せます。
本記事では口コミが採用に与える影響と、企業が口コミを活かして採用力を高める具体的な戦略をご紹介します。
第1章:人は口コミで動かされる

あなたは「食べログ」やGoogleマップの口コミを見て行くお店を決めたことがありますか?
「星3.7のお店だから美味しいはず!」と思った経験があるなら、あなたも口コミの力に動かされているのです。
人間は不思議なもので、知らない人の意見でも「多くの人が言っているなら」と信頼してしまいます。
特に日本人は、他人の意見や行動に強く影響される傾向があります。
食べログの評価が0.1点下がるだけで、お店の売上が数%も減るという調査結果もあるほどです。
「行列のできる店には理由がある」というのも、まさに口コミ効果そのものですね。
Amazonでも「☆1つの辛口レビュー」を見て商品を買うのをやめた経験はありませんか?
「写真と全然違う」「すぐに壊れた」というレビューがあれば、他の選択肢を探してしまいますよね。
逆に「想像以上に良かった!」「コスパ最高!」という声が多ければ、迷わず購入ボタンを押してしまうものです。
ホテル予約サイトの「トリップアドバイザー」でも、口コミ評価が一つ上がるだけで予約率が5%以上も上がるそうです。
このように、私たちは日常的に他人の経験を参考にして、自分の行動を決めています。
これが「口コミ効果」の正体です。
第2章:採用にも口コミが大きく影響する
実は、この口コミの力は就職活動においても絶大な影響力を持っています。
「あの会社はブラックだよ」という一言で、優秀な人材が逃げていくケースは少なくありません。
ビッグモーターの例を見てみましょう。
OpenWorkで「歩合ノルマが地獄」という投稿が急増しました。
OpenWorkとは、約450万人が利用する国内最大級の社員口コミサイトです。
実際に働いている社員や元社員の生の声が集まる場所で、企業の年収データや働き方の評価が詳しく見られます。
社風や残業時間、有給消化率なども数値化されているため、就活生や転職希望者の2人に1人が利用しているとも言われています。
同時にX(旧Twitter)で街路樹に関する皮肉ツイートが広がり、YouTubeでは元社員によるパワハラ告発動画が拡散。三方向からの”炎上”が起こり、採用活動に大きな打撃を与えたのです。
電通の事例も衝撃的でした。
過労自殺した新人社員のTwitterアカウントが注目を集め、長時間労働の実態がリアルタイムで外部に流出してしまいました。
その後、OpenWorkでの「残業100時間超え」という口コミや、就職ブランドランキングの急落が話題となり、”ブラック企業”というレッテルが固定化されました。
反対に、良い口コミが採用を後押しする例もあります。
海外事例ですが、Googleの場合、Glassdoorという口コミサイトで4.3点(5点満点)という高評価を獲得しています。
この評価が「応募200万通」「合格率0.2%」という神話とセットでシェアされ、口コミ自体が強力な広告となりました。
サイボウズという会社は、自社メディア「サイボウズ式」で”100人100通りの働き方”を発信。
SNSで話題となり、採用説明会をウェビナー化したことで応募者数が倍増したそうです。
このように、口コミは会社の評判を左右し、採用活動の成功を大きく左右するのです。
第3章:口コミはどんな媒体で伝わるのか
では、これらの口コミはどのような経路で広がっていくのでしょうか?
まず、最も古典的なのは「人から人へ」の直接的な伝播です。
「ゼミの先輩があの会社に入ったけど、やめちゃったらしいよ」といった会話が学生の間で広がります。
学生たちの交友範囲は意外と広いものです。
大学の垣根を越えてサークル活動やアルバイト先、SNSなどを通じて情報が拡散します。
次に影響力が大きいのは、専門的なクチコミサイトです。
「OpenWork」や「転職会議」といった社員の生の声が集まるサイトは、就活生必見のメディアとなっています。
ユニクロの場合、これらのサイトに「3年で半数離職」という口コミが並び、勤続のストレスが可視化されました。
さらに東洋経済オンラインの特集がSNSで拡散し、「ブラック企業」という議論が一気に広まったのです。
SNSも強力な拡散媒体です。
X(旧Twitter)でのつぶやきが拡散され、ニュースサイトに取り上げられ、そこからさらに拡散するという連鎖が起きます。
海外事例ですが、パタゴニアという企業はLinkedInの「Life at Patagonia」ページで環境活動と福利厚生を全面アピール。
パタゴニアはアメリカ発のアウトドアブランドです。
「地球を守るためにビジネスを営む」という理念を掲げ、売上の1%を環境保護団体に寄付するなど、環境保全を優先する姿勢で知られています。
同じメッセージを公式Instagramでも繰り返し投稿し、「地球のために働く」という物語が就職動機に直結しました。
このように、口コミは複数の媒体を通じて、想像以上の速さで広がっていくのです。
第4章:企業は口コミにどう対応すべきか
では、採用を成功させたい企業は、口コミにどう対応すべきでしょうか?
まず、企業活動のどんな側面も口コミになりうると自覚することが大切です。
「採用に関係ない場面だから」と油断していると、思わぬところから悪評が広がります。
採用面接で面接官の態度が冷たかったり、高圧的だったりすると、学生の間でその噂は驚くほど速く広がります。
「あの会社の面接官、すごく偉そうだったよ」といった情報は、就活生のSNSやコミュニティで共有されがちです。
採用するか否かにかかわらず、応募者に良い印象を持って面接を終えてもらうことが大切なのです。
また、臨時のアルバイトやインターンの待遇が悪いと、それも口コミに影響します。
「短期バイトでも大事にされなかった」という経験は、将来の優秀な人材を遠ざけることになります。
「本物の良さ」を伝えることが何より大切です。
「うちはホワイト企業です!」と言うだけでは誰も信じません。
具体的な制度や社員の声を通じて、リアルな会社の姿を伝えることが信頼につながります。
そして「口コミへの対応」も重要です。
ネガティブな口コミが出た場合、真摯に受け止め改善する姿勢を示すことで、かえって信頼を得られることもあります。
「隠す」よりも「改善する」姿勢を見せることが重要なのです。
最後に「社員を大切にする」ことが、結局は最大の口コミ対策になります。
社員が「この会社で働くのは楽しい」と思えば、自然とポジティブな口コミが生まれていきます。
口コミの通り道を押さえると、採用は半分終わったも同然です。
「媒体を選んで評判を育てる」――これが人手不足時代の必修科目といえるでしょう。
良い会社は、良い口コミで人を集め、さらに良い会社になっていく。
この好循環を作ることこそが、これからの採用戦略の核心なのです。
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