中小企業経営者の皆さん、「アルムナイ採用」をご存知ですか?
これは退職した元社員を再雇用する採用手法です。
大手企業で導入が進んでいます。
2024年の調査では4割の企業が実施し、採用率は7割を超えています。
即戦力確保、採用コスト削減、新しい視点の獲得など多くのメリットがある一方で、既存社員との処遇差や人間関係トラブルなどの課題も存在します。
人的資本経営の考え方が広まる中、メリットと課題を理解した適切な運用が成功の鍵となります。
第1章 アルムナイ採用という言葉を知っていますか?
アルムナイ採用とは何か?
「アルムナイ」とは英語で「卒業生」や「同窓生」を意味します。
企業の人事分野では、定年退職者以外の元社員を指します。
つまり、アルムナイ採用とは、過去に自社で働いていた元社員を再び雇用することです。
かつては「出戻り制度」「再雇用制度」などがありました。
しかし、これらは結婚、出産、育児、介護といった個人的事情による退職者が主な対象でした。
アルムナイ採用は転職や起業など、様々な理由で退職した人も対象とします。

なぜ今注目されるのか?
2024年の最新調査によると、企業の中途採用担当者の40.9%がアルムナイ採用を実施しています。
特に従業員数301名以上の企業では、半数以上が導入済みです。
アルムナイ採用では採用率7割以上が45.7%と、通常の中途採用と比べて圧倒的に成功率が高いのです。
注目される背景には以下があります。
少子高齢化と労働力不足の深刻化
労働人口の減少により、優秀な人材の確保が年々困難になっています。
働き方の多様化と人材流動性の高まり
転職がキャリアアップの選択肢として一般化し、終身雇用制度の見直しが進んでいます。
人的資本経営の考え方の広まり
従業員を企業の重要な資本として捉える考え方が広まり、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」でもアルムナイとの関係構築が重要施策として挙げられています。
第2章 実際にアルムナイ採用を利用した企業の実例
事例1:マツダ株式会社
マツダは2024年12月にアルムナイ採用を本格開始しました。
「カムバック採用サイト」という専用サイトを開設し、年齢や退職後の経過年数に制限はありません。
電動化やIT、MaaSなど新領域での価値創造を進める中、社外で新たな経験を培った退職者を「貴重な人材」と位置づけています。
専用コーディネーターによるサポートも提供しています。
事例2:三菱電機株式会社
三菱電機は2024年1月に「Re-MELCO~アルムナイネットワーク~」を新設しました。
従来のカムバック採用では退職後のつながりを維持できなかったため、定期的な情報提供を行うネットワークを構築。
求人情報、ニュースリリース、セミナー情報を配信し、専任のカムバックコーディネーターへの個別相談も可能にしています。
事例3:味の素株式会社
味の素は2024年1月に「味の素アルムナイコミュニティ」を新設しました。
「志でつながり合うネットワーク」を社外に拡大する取り組みです。
業績や新たな取り組み情報を閲覧でき、アルムナイ同士の情報交換も可能な専用サイトを開設しています。
第3章 アルムナイ採用がもたらすベネフィットと課題
主要なメリット
即戦力として活躍
元社員は企業文化や業務プロセスを理解しており、入社後すぐに貢献できます。
2024年の調査で54.0%の企業が「即戦力として活躍してくれること」を実感しています。
採用・教育コストの削減
求人広告費や人材紹介会社への手数料を削減でき、研修期間も短縮できます。
48.0%の企業が「採用・育成コストを削減できた」と回答しています。
新しい知見の導入
他社での経験を積んだアルムナイは、新たな視点やスキルを持ち帰り、組織の活性化につながります。
44.6%の企業が「自社外で身に着けたスキルを還元してくれた」と評価しています。
企業ブランディング向上
「従業員を大切にする企業」「戻りたいと思われる会社」というイメージを獲得できます。
現職社員にも「失敗しても戻れる」という心理的安全性を提供します。
主要な課題
既存社員との処遇差による不満
アルムナイが良い待遇で戻ってくる場合、既存社員が不公平感を持つリスクがあります。
人事制度の見直しと公正な評価基準の検討が必要です。
人間関係トラブル
再雇用されたアルムナイと既存社員との間で、新たな人間関係や職務分担に問題が生じる可能性があります。
既存社員の退職ハードル低下
「退職しても戻れる」という安心感が、現職社員の退職検討のハードルを下げるリスクがあります。
企業文化の硬直化
アルムナイばかりを再雇用すると、新しい視点が取り入れられにくくなり、イノベーション創出が阻害される可能性があります。
第4章 新しい働き方の時代
終身雇用制度はすでに終わりを告げている
日本の労働環境は大きく変化し、終身雇用制度は事実上崩壊しました。
転職は当たり前の選択肢となり、転職経験のある20代の25.3%がアルムナイネットワークに参加しています。
中途退職者を裏切り者と思うのはやめよう
従来の日本企業では退職者をネガティブに捉えがちでした。
しかし、転職は個人のキャリア形成の一部として認識すべきです。
優秀な人材ほど成長意欲が高く、その挑戦を応援する姿勢が重要です。
退職者のチャレンジを応援しよう
退職者のチャレンジを応援することで、人員の新陳代謝が促進され、組織が活性化します。
「失敗しても古巣に戻ることができる」という安心感があれば、社員は心置きなくチャレンジできます。
戻ってきた元社員は、たとえ失敗を経験していても、そこから得た知見は会社の発展に寄与します。
中小企業こそアルムナイ採用を活用すべき理由
中小企業は知名度や待遇面でハンディキャップがありますが、元社員は会社の良さを理解しています。
待遇だけでなく、働きがいや成長機会を評価してくれるため、中小企業ならではの魅力を活かせます。
採用コストの削減効果も大きく、限られた予算で優秀な人材を確保できます。
まとめ アルムナイ採用で人材戦略を変革しよう
アルムナイ採用は単なる採用手法ではなく、組織文化を変革する戦略的な取り組みです。
大手企業での導入事例が示すように、即戦力確保、コスト削減、組織活性化など多くのメリットがあります。
しかし、既存社員との関係や企業文化への影響など、課題もしっかりと認識する必要があります。
成功のポイント
- 復職条件の明確化と公正な評価基準の設定
- 退職時からの良好な関係維持
- 定期的な交流機会の提供
- 社内の受け入れ体制整備
- 多様な人材採用とのバランス
今すぐできる第一歩
- 退職者との連絡先をデータベース化する
- 定期的な情報発信を始める
- 年1回の同窓会イベントを企画する
- 再雇用制度の整備と条件設定を行う
- 既存社員への説明と理解促進を準備する
「退職は終わりではなく、新しい関係の始まり」
この考え方で人材戦略を見直し、メリットと課題を理解した適切な運用を行いましょう。
そうすれば、アルムナイ採用は強力な人材戦略となります。
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