求人動画での社員出演は、中小企業の採用活動において、いまや必要不可欠な手段です。
しかし、強制的な出演依頼が優秀な社員の退職を招いた事例も存在します。
社員出演のメリットとリスクを分析し、中小企業経営者が取るべき実践的アプローチを考えます。
第1章 ある中小企業が求人動画で失敗した理由
講談社「マネー現代」に掲載された社会保険労務士・木村政美氏の記事が、求人動画をめぐる深刻な問題を浮き彫りにしています。
- タイトル:「30歳営業マンが『業務命令』で求人動画に出演…『まさかの退職』を決意した『意外なきっかけ』」
- 筆者:木村政美(社会保険労務士)
- 掲載媒体:マネー現代(講談社)
- URL:https://gendai.media/articles/-/162859
都内の専門商社で起きた実例です。
人手不足に悩む同社は求人動画制作を決定しました。
極度のあがり症で出演を固辞した30歳営業主任に対し、上司は「これは業務命令だ」と強制します。
撮影当日NGを連発し、ぎこちない仕上がりに。
公開後、友人から「動きがまるでロボットみたい」と笑われた社員は精神的に追い詰められます。
削除要請も「追加費用がかかる」と拒否されました。
後日、この優秀な営業主任は退職届を提出しました。
続編記事(https://gendai.media/articles/-/162860)では、会社が犯した3つのミスが指摘されています。
業務命令による強制、同意書の不備、削除要請への硬直的対応です。
この事例をヒントに、中小企業は求人動画にどう向き合うべきか考察します。
第2章 それでも若手社員の直接出演は絶対に必要である
失敗事例を見て「社員出演はリスクが高い」と考える経営者もいるでしょう。
しかし、若手社員の直接出演は、中小企業の採用活動において絶対に必要な要素なのです。
求職者が知りたいのは「リアルな職場」
現代の求職者、特にZ世代は企業の公式情報を鵜呑みにしません。
求人サイトの「アットホームな職場」という常套句は、もはや誰も信じていません。
若手社員が自分の言葉で語る姿こそが、最も説得力のある情報源になります。
動画でしか伝わらない情報
表情、声のトーン、身振り手振りから人は多くを読み取ります。
若手社員が笑顔で語る姿、背景に映る職場の雰囲気、自然なやり取り。
動画には自然と映り込む「リアリティ」があり、これは文字では表現できません。
社長のビジョンとは別の価値
社長が事業のビジョンを語る動画も重要です。
しかし、求職者が知りたいのは「経営方針」だけではありません。
「実際に働く人はどんな人なのか」
「日々の仕事はどんな雰囲気なのか」
という現場のリアルです。
社長の言葉と若手社員の言葉、両方があって初めて企業の全体像が伝わります。
中小企業の強みは「等身大のリアルさ」です。
多少ぎこちなくても、若手社員が自分の言葉で語る姿には、洗練された動画にはない説得力があります。
第3章 社員出演のメリットとデメリットを天秤にかける
メリット(会社側の視点)
信頼性の向上、親近感の醸成、社内の一体感醸成です。
実際の社員が語ることで得られる信頼感は、どんな広告コピーでも得られない価値です。
デメリット(社員側の視点)
カメラの前に立つ心理的負担、SNS拡散リスクへの恐怖、プライバシーへの懸念です。
特にあがり症の人にとっては、耐え難い苦痛となります。
法的制約
肖像権とプライバシー権は憲法上の人格権として保護されています。
「業務命令だから従え」という論理は法的に成立しません。 退職後も権利は継続します。
結論
社員出演のメリットは非常に大きく不可欠です。
しかし、社員の人格権を侵害してまで得るべきものではありません。
「やり方次第で両立は可能」なのです。
第4章 中小企業だからこそできる配慮ある動画制作
大原則:完全任意
出演は「お願い」ベースで依頼し、断られても評価に影響させない。
この姿勢がすべての土台です。
「出演したい人」を見つける
SNSに慣れ親しんだ世代には「自分が働く姿を発信したい」と考える人がいます。
社内で募集を告知し、興味のある人に自主的に手を挙げてもらうのです。
必須準備:同意書の作成
使用目的、公開期間、公開媒体、退職後の扱い、削除要請への対応を明記した同意書を必ず作成します。
撮影前後のサポート
詳細を事前に伝え、緊張しない撮影環境を作るよう配慮します。
NGを出しても構わない雰囲気を作ることも大切です。
公開後は出演者に感謝を伝え、ネガティブな反応があった場合の対応マニュアルも準備します。
出演NGの社員への配慮
断られても評価に影響させないことを明確に伝えます。
声だけの出演、後ろ姿のみなど代替案も提示できます。

AIによって実写をアニメ風に加工するなど、本人を意識させないやり方もあります。
完全実写に比べれば信頼性は劣りますが、「本人の希望によりこういう形で表現しています」というお断りテロップを入れることで成立するという考え方もできます。
まとめ
若手社員の直接出演は、他の手法では得られない説得力と信頼感を生み出します。
しかし、それも本人が自ら進んで出演してこそです。
その効果を得るためには社員の権利を尊重し、丁寧な配慮を重ねることが不可欠です。
強制ではなく任意、一方的ではなく対話。
こうした姿勢こそが、動画を見た求職者を惹きつけます。
人手不足の時代だからこそ、社員一人ひとりを尊重する。
それが、優秀な人材を惹きつけ、会社を成長させる道なのです。




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