せっかく採用した若手社員が、すぐに辞めてしまう。
そんな悩みを抱える経営者が増えています。
彼らが去る理由は、仕事の厳しさではありません。
職場における「会話の不在」と「孤独」が原因であることが多いのです。
「他人に聞かない若者」が増える背景を解説します。
その上で、会話を個人の資質に任せず、「業務の手順」として組み込むヒントを提案します。
第1章 静まり返るオフィスで進行する「見えない孤立」
「最近の若手は、何を考えているかわからない」
多くの中小企業経営者から、そんな嘆きを聞きます。
彼らは真面目に仕事をしていますが、どこかよそよそしい。
雑談もなく、黙々とパソコンに向かっています。
そしてある日突然、退職届を出してくる。
あるいは、「退職代行」を使って姿を消すこともあります。
なぜ、彼らは会社に定着しないのでしょうか?
その大きな原因の一つが、職場における「会話の不在」にあります。
東洋経済オンラインに『日本社会で増殖する「他人に聞かない若者たち」、その先に生じる《新たな格差》がもたらす悲惨な末路』という記事がありました。
筆者は、経営学者の長田 貴仁氏です。
最近の若者は、仕事でわからないことがあっても人に聞きません。
上司や先輩に質問することを、極端に避ける傾向があるそうです。
その代わりに、ネット検索やAIを使って答えを探します。
「相手の時間を奪ってしまう」という罪悪感があるのです。
また、「こんなことも知らないのか」と思われることを恐れています。
一見すると、手がかからない優秀な社員に見えるかもしれません。
しかし、ネット上の正解が、自社の正解とは限りません。
彼らは誰ともプロセスを共有せず、独りよがりの成果物を作ってしまいます。
この「見えない孤立」が、会社への愛着を奪っていきます。
「ここにいる意味」を感じられないから、簡単に辞めてしまうのです。
第2章 なぜ「質問ある?」と聞いてはいけないのか
若手社員との会話を増やすには、どうすればよいでしょうか。
「もっと雑談しよう」と呼びかけるだけでは不十分かもしれません。
私自身の講師としての経験をお話しします。
以前は受講生に「ここまでで質問はありますか?」と聞いていました。
しかし、たいてい「ありません」と返ってきて、そこで終わってしまいます。
そこで聞き方を変えて、「どう感じたか教えてください」と振るようにしました。
感想を求められると、彼らは口を開かざるを得なくなります。
人は自分の言葉で話している時に頭を使います。
アウトプットすることで、初めて内容が定着するからです。
これは、オフィスのマネジメントにも応用できます。
多くのビジネスマンは、説明の後に「質問ある?」と聞きがちです。
しかし、これは若手にとって答えにくい問いかけです。
「質問がある」と言うことは、理解不足を認めることだと感じるからです。
その結果、わかったふりをして席に戻ってしまうのです。
この悪循環を断ち切るには、コミュニケーションの主導権を変えてみましょう。
上司が一方的に話して終わるのではなく、部下に「言ってもらう」のです。
会話を「コミュ力」の問題として片付けるのはもったいない。
そうではなく、業務を進めるための「必要な手順」と捉え直してみてはいかがでしょうか。
第3章 ミスと孤立を防ぐ「3点確認プロトコル」
製造業の現場では、未熟な新人でもミスなく動ける手順が確立されています。
それを応用したのが、「3点確認プロトコル」という考え方です。
仕事に着手する前に、以下の3つを確認し合うことをルールにします。
1. 「完了条件」の言語化
仕事のゴールのイメージを部下の言葉で説明してもらいます。
「この仕事が終わった時、どんな状態になっているべきだと思う?」と聞いてみます。
「いい感じに頼む」という曖昧な指示は、若手を迷わせてしまいます。
2. 「最初の一手」のシミュレーション
具体的な行動を宣言してもらいます。
「持ち場に戻ったら、まず最初に何のツールを開く?」と聞いてみます。
もしここで答えに詰まるなら、まだ理解できていないサインかもしれません。
物理的な行動レベルまで落とし込んで、口に出してもらうのがポイントです。
3. 「停止条件」の数値化
いつ相談に来るべきかを決めておくのも有効です。
「もし15分考えても手が動かなかったら、すぐに報告してね」
このように伝えておけば、相談のハードルは下がります。
「15分止まったので来ました」と言えばいいだけだからです。
この3つの手順を踏むだけで、会話の総量は劇的に増えるはずです。
第4章 会話を「業務」にすれば、若手は定着する
この「3点確認プロトコル」を導入すると、会話の量は自然と増えるはずです。
しかし、それは単なる雑談ではありません。
業務を円滑に進めるための、質の高い情報交換の時間です。
若手は上司と話す機会を強制的に得ることになります。
自分の言葉で話し、それを上司に聞いてもらう経験が積み重なります。
これが、職場における「心理的安全性」を育てることにつながります。
「自分の存在が認められている」という実感が、定着率を支えます。
会社の中に「自分の居場所」ができるからです。
会話を業務フローに組み込むことは、有効な定着対策になり得ます。
「最近の若者は会話ができない」と嘆く前に、試せることがあります。
彼らは、会話のきっかけとルールがないだけなのかもしれません。
上司側から、話しやすい「型」を提示してあげるのも一つの方法です。
小回りの利く中小企業こそ、こうした改革に取り組みやすいはずです。
まずは明日の朝から、「質問ある?」を控えてみてはいかがでしょうか。
そして、「まず何をするか言ってみて」と問いかけてみる。
そんな小さな変化が、若手が育つ土壌を作っていくかもしれません。
社員が定着し、活気ある職場を取り戻す第一歩になれば幸いです。




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