一度退職した社員を再び迎える「アルムナイ採用」が、トヨタや名鉄など大手企業でも広がっています。
人手不足に悩む中小企業こそ、この仕組みを戦略的に活用すべきです。
退職者の起業支援やリターン確約など、「出たり入ったり」を前提とした柔軟な人材戦略が、あなたの会社を救うかもしれません。
第1章 ある町工場社長の「再会」
いつもの居酒屋で一杯やっていたら、見覚えのある顔がありました。
6年前に辞めた元社員でした。
向こうは気づいていないようです。
「おい、久しぶりだな!」と声をかけると、彼はばつが悪そうな顔をしました。
「あ、社長…お久しぶりです」
気まずい空気が流れます。
でも、せっかくの再会です。
「一杯どうだ?」と誘いました。
当時は正直、頼りない社員でした。
ミスも多く、自信なさげで、将来が不安だと言って辞めていきました。
最初は当たり障りのない話をしていましたが、酒が進むにつれて本音が出てきました。
あれから2社を経験したといいます。
最初はIT系のベンチャーでデジタルマーケティングをやり、次は中堅メーカーの営業部。
「実は今、また転職しようか迷ってるんです」
話を聞くと、大手志向ではなく「やりがい」を求めているようです。
ふと思いついて「うちに戻ってこないか?」と提案しました。
人手不足もありましたが、それだけではありません。
目の前の彼は、かつての頼りない姿とは別人でした。
ITベンチャーで学んだデジタルマーケティング、メーカーで身につけた提案営業。
町工場のうちには無かったスキルばかりです。
何より、話し方には自信があふれていました。
「本当ですか?戻れるなら、ぜひお願いします」
その3ヶ月後、彼は営業部のエースとして活躍しています。
正直に言えば、辞めていった時は裏切られたという思いもありました。
でも、あの飲み屋で声をかけて本当に良かったです。
この偶然の再会が、社長の考え方を180度変えたのです。
(この話はフィクションです)
第2章 世界のトヨタでさえ「出戻り拒否」の風土がありました
実は、この「出戻り採用」は特別なことではなくなってきています。
大手企業でも、積極的に取り入れ始めているのです。
2025年11月、東海テレビが興味深いニュースを報じました。
「出戻り」側の決断には葛藤も…トヨタなど大手でも広がる『アルムナイ採用』一度退職して触れた“外の文化”への期待
トヨタ自動車や名古屋鉄道、三菱UFJ銀行などが、一度退職した人を再び採用する「アルムナイ採用」を広げているというのです。
アルムナイとは、英語で「卒業生」を意味する言葉です。
企業を卒業した人が、また戻ってくる。
そんな採用方法が今、注目されています。
驚くべきことに、トヨタでさえ「退職した人が戻ってくることにネガティブな風土があった」といいます。
あの世界のトヨタでさえ、です。
でも2023年から方針を転換し、アルムナイ採用を始めました。
記事で紹介されていた坂元みゆきさんは、2009年にトヨタに入社しました。
夫のロシア転勤をきっかけに2021年に退職。
その間にMBAを取得し、帰国後は人材育成のコンサルティング会社に入りました。
そして2025年1月、再びトヨタへ。
外で得た知見を、今度はトヨタで活かしています。
同僚からは「新しい風を持ってきてくれる」と歓迎されているといいます。
名古屋鉄道でも、これまで12人がカムバックしました。
寒河江海斗さんは、父親の病気で一度退職し、地元のローカル鉄道で運転士の経験を積みました。
2025年8月に名鉄に復帰し、その経験を活かして活躍しています。
リクルートのアンケート調査では、退職した社員の「出戻り」を受け入れている企業は、なんと55.5%にのぼるといいます。
もはや半数以上の企業が、出戻りをウェルカムしているのです。
トヨタの人材開発部の担当者は、こう語っています。
「外で得られた知見をトヨタにも生かしていただく。
外の文化をどのようにトヨタ自動車のメンバーに伝えると伝わりやすいのか。
見えていない部分を補ってくださる方だと感じています」
100年に一度の大変革期だからこその決断でした。
第3章 中小企業は「出たり入ったり」をもっと戦略的に使えます
大手企業がアルムナイ採用を始めたなら、中小企業はもっと自由にやればいいのです。
いや、むしろ中小企業の方が有利なのです。
小回りが効きますし、社長の一声で決められます。
ここで提言したいのは、単なる「出戻りOK」ではありません。
もっと積極的に、戦略的に「出たり入ったり」を活用する方法です。
提言1:退職者の起業を積極的に支援しましょう
社員が「独立したい」と言ってきたら、応援しましょう。
資金援助や取引先の紹介、技術指導など、できることは多いです。
成功すれば、新しい取引先が生まれます。
万が一失敗しても、元社員には戻ってこられる場所があります。
その安心感が、挑戦を後押しします。
Win-Winの関係が築けるのです。
提言2:他社転職時に「リターン確約」を約束しましょう
「3年後、戻りたければいつでも戻っておいで」
そんな約束を、書面で交わしてみてはどうでしょうか。
むしろ「デジタルマーケティングを学んできてほしい」と伝えるのです。
これは計画的な人材育成です。
自社では教えられないスキルを、外で学んできてもらいます。
そして成長して帰ってきてもらうのです。
冒頭の物語の元社員は、まさにこのパターンでした。
ITベンチャーで学んだデジタルマーケティングは、町工場には無かったスキルです。
それが今、会社の営業を変えています。
提言3:「副業OK+出戻りOK」のセット運用をしましょう
在職中から、副業で外の経験を積ませます。
退職後も、業務委託で関係を続けます。
完全に縁を切らないエコシステムを作るのです。
たとえば週3日は別の会社、週2日はうちで働く。
そんな柔軟な働き方も、中小企業なら可能です。
大手企業には真似できない自由度があります。
地域密着型の中小企業なら、再会する機会も多いです。
飲み屋で偶然会うかもしれませんし、商工会で顔を合わせるかもしれません。
家族的な関係性が、逆に強みになります。
第4章 人材の「回転ドア」があなたの会社を救います
考え方を変えましょう。
退職は、永遠の別れではありません。
むしろ「人材プール」であり「社外ネットワーク」なのです。
元社員が他社で活躍していれば、そこから仕事が生まれるかもしれません。
起業していれば、協業のチャンスがあるかもしれません。
そして必要な時に、戻ってきてくれるかもしれません。
明日からできる具体的なアクションを挙げてみましょう。
退職者全員とSNSでつながりましょう
LINEでもFacebookでも何でもいいです。
緩やかにつながっておくことが大事です。
年に1回の「OB・OG会」を開催しましょう
飲み会でいいのです。
近況報告をしあうだけで、関係は続きます。
「いつでも戻っておいで」を公式に宣言しましょう
ホームページや求人広告に書いてもいいです。
「当社は退職者の再雇用を歓迎します」と。
退職時に「リターンオファー」の仕組みを作りましょう
簡単な契約書でいいのです。
「○年以内なら、優先的に再雇用します」と約束します。
面白いことに、「この会社は辞めても大丈夫」という安心感が、逆に定着率を上げます。
出口が見えているからこそ、今の仕事に集中できます。
人は、逃げ場があると落ち着くものです。
人手不足で困っている中小企業経営者の皆さん。
人材の流れを止めようとするのではなく、循環させる経営を考えてみませんか。
「出たり入ったり」を歓迎する会社は、採用でも有利になります。
そして何より、あの居酒屋での再会のように。
思わぬところで、かつての仲間と再び手を組めるかもしれません。
その可能性を、自ら閉ざす必要はないのです。




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