大阪府工業協会の採用活動実践研究会で、大橋運輸株式会社の鍋嶋洋行社長の講演を聞かせていただく機会がありました。
そこで語られた「よい会社を作る」という試みが、結果として最良の企業ブランディングになっていると感じたので、共有したいと思います。
第1章 大橋運輸株式会社の概要
愛知県瀬戸市に本社を構える大橋運輸株式会社は、従業員99名、保有車両52台(小型9台・中型11台・大型32台)という規模の地域密着型企業です。
営業拠点は本社と篠原営業所の2箇所のみという中小運輸業でありながら、業界の常識を覆す経営で注目を集めています。
同社が掲げるのは「みんな違う。だから、いい。」という合言葉です。
この理念のもと、十数年前からダイバーシティ経営・健康経営・地域貢献活動に積極的に取り組んできました。
運送業界は従来、男性偏重で働き方の改善が遅れがちな業界でした。
しかし大橋運輸は2000年代後半より、従業員満足度向上と人材確保のため多様な人材採用に本腰を入れ始めます。
第2章 革新的なダイバーシティ経営の実践
大橋運輸のダイバーシティ経営は「人に仕事を合わせる」発想から始まりました。
多様な人材構成の実現
具体的なデータを見ると、同社の従業員構成は運送業界では考えられないほど多様です。
女性社員が約25%と、業界平均を大幅に上回っています。
2011年から始めた女性の採用・定着支援により、子育て中でも働きやすい職場を作り上げました。
管理職の約4割を女性が占めており、能力重視の評価が徹底されています。
高齢者は約5%が在籍し、「カムバック制度」で退職者の再雇用も積極的に行っています。
ベテランの経験と技術を大切にする風土があります。
外国人社員は4カ国にわたり約15%という高い比率です。
管理栄養士として中国出身の社員を採用するなど、スキル重視で国籍は問いません。
障がいを持つ社員は3.8%で、法定雇用率2.5%を大きく上回ります。
一人ひとりの「得意なこと」に注目し、チームの一員として活躍してもらっています。
受賞実績が証明する取り組みの質
2017年には運輸業の中小企業として全国初となる経済産業省「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定されました。
2024年には「D&Iアワード2024」中小企業部門大賞を受賞しています。
第3章 社員の健康を第一に考える健康経営
大橋運輸は「社員の心身の健康が、いい仕事につながる」という信念で健康経営を推進しています。
専門家による健康サポート体制
2018年よりフルタイムの管理栄養士を社内に配置しました。
不規則な勤務になりがちな運送業において、専門家が常駐して食事や生活習慣のアドバイスを行っています。
社員本人だけでなく、扶養家族にも定期健康診断を受けられるよう支援しています。
予防重視の取り組み
毎月、管理栄養士監修のもと季節の野菜や果物を社員に配布しています。
2025年からは「禁煙採用」も開始し、受動喫煙防止と社員の健康維持に踏み込んだ姿勢を見せています。
楽しく体を動かせるバランスボール教室やウォーキングイベントも定期開催しています。
継続的な認定取得
経済産業省「健康経営優良法人認定制度」で6年連続認定されています。
上位500法人だけが選ばれる「ブライト500」に5年連続で名を連ねました。
厚生労働省「健康寿命をのばそう!アワード」では2部門で受賞を果たしています。
第4章 地域と共に歩む地域活動
大橋運輸は企業理念に「仕事を通じてお客様や地域に貢献する」ことを掲げています。
しかし、最近では「私たちは地域課題に挑戦する。」というパーバスのほうが浸透してきたそうです。
幅広い地域貢献活動
地域の小学校で交通安全教室を開催しています。
瀬戸警察署と連携した特殊詐欺防止の啓発活動も実施しました。
管理栄養士が地域住民に無料相談を行う「おはなし広場」を運営しています。
子どもシェルターへの継続支援や高齢者の終活支援にも取り組んでいます。
環境保全と地域交流
社員有志による河川清掃活動を通じて、オオサンショウウオなど貴重な生態系の保全に努めています。
毎年2月5日を「笑顔の日」と定め、地域に笑顔とエコの輪を広げるイベントを開催しています。
瀬戸市の環境パートナーシップ事業者に認定され、市と協働で環境課題に取り組んでいます。
地域からの信頼獲得
瀬戸市より「せとまち市長賞」を受賞しました。
「他の市民の模範となる活動」として評価されています。
地域包括ケアや健康づくりへの貢献が認められ、瀬戸市の後援事業として公式認定も受けています。
第5章 良い会社づくりが生む採用力の強さ
大橋運輸の取り組みは、採用面でも大きな成果を生んでいます。
応募者数と質の向上
同社の活動がメディアで紹介されることで知名度が向上しました。
「社会貢献に意欲が高い」人材からの応募が確実に増加しています。
2023年には福井県の高校生が1年前から同社を調べ上げ、「この会社で働きたい」と応募したケースもありました。
遠方にも関わらず同社を志望し、母親と来社して「娘をお願いします」と託されています。
採用コストの大幅削減効果
鍋嶋社長によると、これらの取り組みにかけたコストよりも、コスト削減や売上向上の効果の方がはるかに大きかったといいます。
直近6年連続で新卒採用に成功しています。
求人票を大学や高校に出さずとも応募が来る状況を作り出しました。
社員満足度向上による社内からの紹介採用も増加しています。
取り組み開始当初と比べ応募者数は明らかに増加し、投資以上のリターンを得ています。
価値観のマッチした人材確保
自社の理念や活動に共感した応募者は、入社後のミスマッチが少なく定着しやすい傾向にあります。
従来、大手との人材獲得競争では太刀打ちできない中小企業が、自社ならではの戦略で優秀層を確保できている好例です。
大手企業から研修依頼を受けるほど社外の評価も高まっており、「多様性を活かす経営」としての企業ブランドが確立されています。
まとめ 継続的な取り組みが生む好循環
大橋運輸株式会社の事例は、「良い会社づくりが最終的に採用力に直結する」ことを明確に示しています。
ダイバーシティ経営・健康経営・地域貢献という3つの柱は、単なるCSR活動ではありません。
これらは企業文化そのものとして根付き、従業員満足度向上と社会的信用獲得の両方を実現しています。
十数年にわたる地道な努力により、「人を大切にし社会に貢献する会社」という企業イメージが確立されました。
その結果、採用面でも他社にはない強みとなっています。
人口減少や労働力不足が進む中、同社のように本気で社員と地域に向き合う経営こそが、これからの企業の採用力・ブランド力を左右するでしょう。
「自社の信じた取り組みを長く続けることで、それがやがて採用にも効果を発揮する」 大橋運輸の取り組みは、すべての企業にとって示唆に富む事例と言えます。
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