ツカミって何?

ツカミというのは演芸の言葉で、最初に観客の心を掴むことだ、と申しました。
漫才でいえば、舞台に上がってきた漫才師が、まず何を言って笑わせるのか、という部分です。

漫才コンビによって独特のパターンを持っていたりしますね。
たとえば、大木こだま・ひびき師匠。
ひびき「ようこそお越しくださいまして」
こだま「わざわざ来てくれんでもよかったんや。電話くれたらワシ行きましたのに」
これは定番のツカミですね。

寄席の舞台がいったん空になって、観客も出てきた漫才師たちに注目しています。
最初に1回笑わせることによって、漫才の中身に観客の心を誘導する、ということができます。
ここですべってしまえば、漫才が受けることはありません。

最初が肝心

同じように、販促映像でも最初が大事です。
視聴者がまず最初に何を見せられるのか注目しているのですから、ここでうまく心を掴めば最後まで集中して映像を見てもらえます。
反対に「なんだ、つまらない」と思わせてしまったら、気もそぞろになってしまって、いくら良い販促映像でもろくに見てはもらえません。

ツカミは本題ではないので、長い時間を使ってはいけません。
全体が5分だとすれば、その中では30秒くらいが適切です。

今回は、できるだけパターン化してご説明しようと思っているのですが、このツカミの部分だけはなかなかパターン化が難しいです。
商品の特性や視聴者の立場によって、何で心をつかまれるか、が違います。

ただ、有効ないくつかのツカミパターンをご紹介しておきましょう。

ユーザーの悩みでツカむ

たとえば「ユーザーが困っていることを解決する商品(サービス)」だったとします。
そうすると、その「ユーザーの悩み」がツカミとして使えます。

たとえば、今ではもう当たり前になりましたが、あなたが最初にルンバのようなロボット掃除機を発明したとしましょう。
開発の苦労などあるでしょうから、「このロボット掃除機には、最新のAI技術を応用して部屋の形状を記憶し…」などという技術的なところからはじめたいと思うかもしれません。

しかし、ユーザーにとってはそれはどうでもいいことで、ロボット掃除機は「他のことをしている間に部屋をきれいにしてくれる」機械でしかありません。となると、ターゲットは、時間がなくて部屋の掃除が行き届かない、という悩みを抱えているユーザーです。

たとえば、家事に追いまくられている主婦を登場させます。ゴミだし、子どもの送り迎え、食材の買い物、などコマねずみのように働いています。でも、ハッと気づくと部屋の掃除はまだ手つかずでした。「子どもを幼稚園に迎えにいってる間に、誰か部屋の掃除をしてくれないかしら」とぼやきます。これが彼女の悩みです。

これは主婦あるあるのひとつで、誰でも共感してくれるはずです。そこへロボット掃除機が登場して、みるみる部屋を掃除していく映像が映し出されれば、「なに? この便利な機械は?」と、集中して見てくれることは間違いないでしょうね。

これは直接エンドユーザー向けに効く「ツカミ」の例です。

事実・データでツカむ

もうひとつのパターンは「社会的な事実から」のツカミです。

同じロボット掃除機の例で話しをしてみましょう。たとえば、最初にこんなグラフを見せてみます。
「日頃、時間をとられて負担なので、短縮したいと思っていることを教えてください」という主婦向け調査のグラフです。

出典: しゅふJob総研 https://www.bstylegroup.co.jp/news/shufu-job/news-11284/

ここでは、「掃除・後片付け」は第2位に入っています。第1位の「料理」とほぼ同じ数値なので誤差を考えれば同率1位と考えてもいいくらいです。

もうひとつのグラフを見せます。これは家事代行業者の登録件数の推移のグラフです。

出典:もてなし隊デイリーサポートそらhttps://bit.ly/2M39pDM

近年、登録数が急増しています。

ここではグラフを見せましたが、こういった傾向は新聞記事にもなっているはずですし、そうした新聞記事の見出しを見せてもいいですね。

そうした社会的な事実を見せておけば、ロボット掃除機がここに登場しても「売れる」と視聴者は判断するのではないでしょうか?
こうしたツカミは、たとえば卸問屋とか大規模小売店などの流通関係者向けに効くツカミですね。

「商品力」でツカむ

最後にもうひとつツカミのパターンを紹介します。
それは「商品力」からのツカミです。

まだロボット掃除機が世の中にない時代だったと思ってください。
冒頭、ロボット掃除機が床を移動しています。

視聴者は「えっ? これは何?」と思うはずです。
そうすると、ロボット掃除機は床のゴミをどんどん吸い込んでいきます。
「あ、自動で部屋を掃除してくれる機械なんだ。すごい!」と思うでしょうね。

こんな映像からスタートするわけですが、ただしこれは今では通用しません。
なぜなら、すでにロボット掃除機そのものは見慣れてしまっているからです。

商品が相当に力を持っている場合にのみ、これはツカミとして成立します。
これまで世の中にない商品であったり、圧倒的にデザインが素晴らしい商品、動作している様子がユニークな商品など。
特にビジュアル的な商品力があった場合は、これがツカミとして成立します。

プロの映像クリエイターは、こうしたツカミの「開発力」を磨いています。
いろいろなパターンの引き出しを持っていますし、映像的な技術も持っています。

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